今回、とんかつをドローンに乗せて宅配したことが各種SNSやTVニュースに取り上げられています。想像を超える反響でして、未来のドローン配送を想像する人や、これからの物流問題の解決策のように捉える人、一方ネガティブな意見だと、「ホコリがついちゃう」とか「ラップはしてくれ!」とか衛生面で気になるひとがたくさんいました。ここで一つ声を大にして言っておきますが、、、

ただの遊びです!!!

今回、ゲストに来ていただいた@GOROmanさんやカワヅさんへのサプライズとして企画したもので、特段とんかつを飛ばすことに注力しているわけではありません笑 あまりにも多くの反響をいただき質問いただくので、どうやって今回の”とんかつドローン”を飛行させているのか少しこちらに記載しておきます。

なぜ、とんかつをドローンで飛ばそうと思ったのか?

Twitterでアップされている動画はこちらです。

私たちは廃墟をリノベーションして、ドローンをゼロから製作したり、センサーレスの自作ドローンを操縦する技術を向上させるドローンラボ『YDL』を運営しています。これまで、ピザやコーラ、誕生日ケーキなどを運んでいますが、そういった”フードのドローン配送”だったり、スズメバチの巣をスプレーで撃退する”蜂退治スプレー噴射ドローン”を開発したりしてきました。

もちろん、FPVマイクロドローン撮影といった、小型軽量の自作ドローンを使った4K撮影も行っていますが、元となる製作・操縦技術は一緒です。パーツを取り寄せ組み上げて、セッティングを行い、3Dプリンタを使ってマウントを作り、目的に応じてカスタマイズしたドローンを飛行させています。

今回は、ゲストとしてGOROmanさんとカワヅさんがいらっしゃったので、サプライズプレゼントとしてドローンでとんかつを目の前で届けるというのをやりましたが、実際の作業としてはとても簡単で、買ってきたとんかつをお皿にセットして、ドローンに3Dプリンタで製作したマウントで搭載して飛行させるだけです。

スプレー噴射などの場合は危険物であり、ドローン投下事案となるため、航空法の規制対象となりますが、ものを搭載するだけであれば、普通に飛ばすドローンと何ら変わりません。

自作ドローン(GPSや超音波、気圧センサーなど機体を安定させるセンサーがない)を飛行させる技術があれば、あとはうまく搭載させるだけなので、さほど難しくもなく、遂行することができます。

冷めちゃう?ホコリは?フードドローン配送の課題とは

実際にこれを実運用として落とし込むことを狙ったわけではないですが、せっかくの機会なのでいろんなコメントからどうやって実運用に耐える工夫ができるか?また他にどのような課題があるのかを少し考えてみます。

冷めちゃう・ホコリ問題

今回はお皿にトンカツをのせて、そのお皿をドローンに載せているだけなので、動画を見た人から「ドローンの風でとんかつが冷めちゃう」という声が多くありました。そもそも、朝に買って昼に届けたので冷めてます笑 しかし、これが仮に温かい状態だとするとどういう方法があるでしょうか。

1.出前箱みたいなアルミケースに入れる

引用元https://www.kaunet.com/kaunet/goods/37028558/?gad=1&gclid=CjwKCAjw-eKpBhAbEiwAqFL0mg3j7s0ShKH8qeUlrkfhfxCd03Xf-PvX53LwV0YLjz0p_PU1US42exoCFrwQAvD_BwE

悪くない選択肢ですが、トレードオフになるのはペイロード(重さ)です。市場で販売している出前箱を見ると最低でも1.5kgから3kgほどの重量です。これをドローンに乗せるとなると、モーターのペイロード的にも合計5kg分くらいは最低でも欲しくなります。現在使っているフード配送用ドローンは、ペイロード2kgくらいが限界なので、もう少しモーターサイズを大きくすることで実現することは可能です。重さ自体はこうした調整でクリアできます。

もう一つ考慮するべきは、重心調整です。
出前箱のように最低でも60cm x 60cmくらいの立方体をドローンの直上に載せるとなると、ドローンのプロペラが空気を吸い込む口を塞いでしまうので、上部に位置させる場合は、高さを出す必要が出てきます。そうするとバランスも崩れるのでより大きなドローンで安定させる必要が出てくるでしょう。

仮に出前箱を下部に吊るすなどで対応することもできなくないですが、ドローンから出る風が当たってしまうことで、ドローンの機体に余計な負荷がかかります。全体の重心位置がとても下になるので、より不安定になります。ドローンはなるべく重心位置を真ん中にもってくることで安定を保ちやすくなるし、下よりも上に重心を置くほうが安定します。

仮に1.5mのロープで下に吊るすということは、最低飛行高度が2mほどになってくるので着陸などもできなくなってくるので、シームレスにテーブルまで宅配するためには、下に吊るすという選択肢自体が消去されます。

結論としては、出前箱を搭載するようなソリューションは不採用になるでしょう。

2.保温機能をもたせる

既存の出前ソリューションで解決できないのであれば作ってみるのもいいかもしれません。例えば、トンカツに透明なクリアケースやラップなどで保護するとします。これ自体は保温効果も多少はありますが、ホコリを防いだりするにも使えます。正直これだけでも十分運用はできると思いますが…。

さらに温めるのであれば、ドローン飛行に使っているバッテリー電源を用いて電熱線を組み込んだケースを作るというのが良い気がします。5VのUSB電源で保温してくれるバッグなどがあるので、それを分解して電熱線をケースに貼り付けます。ドローンの電源であるリポバッテリーのバランスコネクタから電源をとれるようにケーブルを改良して、電熱線に電気を送出できるようにすれば保温機能付きのケースがつくれそうです。

引用元:https://www.amazon.co.jp/ZenCT-ランチバッグ-USBヒーター内蔵-ショルダーバッグ-ショルダーベルト付き/dp/B09HBYQRNB/ref=asc_df_B09HBYQRNB/?tag=jpgo-22&linkCode=df0&hvadid=555811342481&hvpos=&hvnetw=g&hvrand=12874753967882423422&hvpone=&hvptwo=&hvqmt=&hvdev=c&hvdvcmdl=&hvlocint=&hvlocphy=20636&hvtargid=pla-1465386243735&psc=1

これであれば追加荷重も大したことないので実現可能な範囲で「保温・衛生面」をクリアできそうです。

距離がそこまで届かない問題

動画では結構な距離があるように見えますが、100-200mくらいしか飛んでません。
どのシーンでドローン配送を使うかで大きく運用方法が変わってきますが、パタンとしては以下3つくらいでしょう。

1.[◎] 飲食店のキッチンからテーブルまで宅配

数mから数十mなのでこれなら問題にならなそうです。キッチンカウンターにドローンをセットしてキッチンのスタッフがドローンに搭載し、客席のテーブルやテラス席、2階席などに運ぶことが可能です。屋内限定であれば航空法の規制も無いし特段法律を気にせず運用することが可能です。

仮に屋外テラスのような場合は、航空法の規制対象となるので、国交省に申請手続きが必要ですが、場所を限定した包括許可運用ができるので、まったく問題ありません。

2.[✕] Uber Eatsのように店舗から住宅まで宅配

渋谷区でUberを頼んだらだいたい自転車とかで運んでくれますが、こういう運用をリプレースするには各種法規制が大きく関係してくるし、何より飛行ルートを限定できないので、運用はかなり難しいし、自転車で運搬するほうがコストも掛からずいいと思います。時速30kmで飛行しても10分で5kmなので、現在の飛行時間が最大10分ほどなので、届けられたとしても帰ってくることができません笑 より大容量のバッテリーにする選択肢もありますが、重量とトレードオフとなり、さらにモーターサイズを大きくして大型ドローンにする方向となるので、結果的に中距離運搬は向かないと言えそうです。

3.[△] 山頂のロッジにフードを届ける

小高い山などで、飛行距離が1kmを切るようであれば可能性はあるかもしれませんが、バッテリーや屋外の不安定要素(風や雨)が重なることを考えると現実的ではなさそうです。距離が500m−1km程度あるということは人間の見通しが効かない場合がほとんどなので、電波的にも工夫が必要となってきます。つまりは自動航空とかができないとなかなか難しいです。

我々がやっていたような、「テーブルまでドローンでフードを届ける」ことを前提にする場合は、近距離のMAX300mくらいの離れた環境内で実現するのがよいかなと思います。

カラスや鳶にドローンが襲われる

これもTwitterで数多くあった反響です。DJI製のドローンをゆっくりと飛ばしていたところに、とんびが飛んできて墜落させられる事例があります。ましてやトンカツなどの食べ物を載せているなら、鳥たちが狙う可能性も確かに出てくるでしょう。

ただし、上述までのように300m以内で数分でドローン飛行することに加えて、DJIドローンのようにゆっくりと直線的に動いているドローンと違って、我々が作る自作ドローンでFPV飛行をする場合は少し勝手が変わってきます。

私自身8年以上、自作ドローンをFPV飛行させてきましたが、鳥と接触したことは一回も無いし、何なら鳥と一緒に飛行したり、鳥のほうが逃げていってしまいます。FPV自作ドローンの動物的な動きや立体的な移動方法が理由だと思いますが(それについては長くなるので別途)、現在のフード配送ドローンは最大時速50kmくらいは軽く出せるので、リアルタイムに鳥の動きを認識しながら避けることは可能だと思います。

その際に急ターンやスピードの加減速でフードが落ちたりズレてしまわないように、ダンパーで振動吸収したりするなどは対応したほうが良いかもしれません。


さて、ここまで出てきた課題とそれに対する解決策をまとめると、

・1kgくらいのペイロードの小型ドローンで
・飲食店のキッチンから客席まで運ぶ前提
・距離にしてMAX300m
・保温専用ケースを取り付ける
・お皿マウント時に振動吸収ダンパー機構を設ける

これであれば、飲食店などのサービスとしてもかなり現実的に運用することができそうです。
ぜひ、チャレンジしてみたい飲食店やトンカツやさんがあれば、お問い合わせくださいませ。